viaを含むモデルの解析ではviaの形状は簡略化して解析時間早めましょう.viaは一つのモデルに多く使われる場合もあるのでviaの形状を簡略化することは全体の解析時間に大きな効果が期待できます.viaのインダクタンスを概算し評価するグラフのコツも紹介します.sonnetがviaを扱う場合の限界も紹介します.波長に対して無視できないほど長いviaは原理的に扱うことができませんし,viaからの放射は無視されます.
Viaの形状を簡略化して解析時間を1/10に
ここでは図のようなviaを4種類のモデルで解析してみました. 結果は±9%以内で一致しましたが,解析時間には180倍もの差が生じました,
基板は1.6t FR4を想定しています. viaの直径は0.8φ,ランド径は1.6φで、sonnetで解析するときに周囲の壁の影響をさけるため、ランドの周囲に基板厚の2倍の余裕を持たせてあります. 基板上部の空気層は基板厚の10倍の16mmとしてあります.
セルサイズを円柱直径の1/8に←おすすめ
ソネット入門の”2.6 部品と関数 バイアスティー”で使っている方法です.計算時間が早く精度も良いです.しかしセルサイズはviaの直径だけに基づいて決められるとは限りません.その時は下の方法がおすすめです.
直径Dの円柱は,概ね一辺0.85Dの角柱に置き換える←おすすめ
これは次の考え方に基づいています..
[円に外接する四角柱のインダクタンス]<[円柱のインダクタンス]<[円に内接する四角柱のインダクタンス]
この考え方は非常にシンプルですが、とても実用的です.セルサイズも0.85Dにすればさらに早く,しかもたぶん大きな誤差は生じないでしょう.
直径Dの円柱は,概ね幅2Dの薄いリボン導体に置き換える
この方法は”ある有名な3次元シミュレータ”のマニュアルの中にも紹介されています.うまくすれば時間やメモリを大幅に節約できます.
Viaの等価インダクタンスの概算
シミュレーションの前にviaの等価インダクタンスを概算しておくと解析結果の評価はもちろん設計上も有益です.電磁気学の教科書に載っている計算式は厳密すぎますし,前提条件が現実とかけ離れていてどうせ精度はでません.PDFの資料“ゼロから始める電磁界シミュレーション”の”4.1.2 インダクタンス”にはもっと簡単な近似式があります.
\( L \approx \frac{l}{5} \ln{\frac{2l}{a}}\mathrm{(\mu H)} \)
ここにaは半径(m),lは長さ(m)です.例えばViaの直径0.8mm長さ1.6mmなら0.7(nH)くらいです.この近似式では数10%の誤差はありますから2桁の精度で計算する意味はないです.
Viaだけを評価するモデルの解析条件とグラフの設定
- 解析周波数のおすすめは 1.59MHzから15.9GHzまで指数関数的に9ポイントか17ポイント, ABSは使わない
- グラフの縦軸はIMAG(Z11), 横軸は周波数直線目盛
低い周波数ではグラフは直線になります.この領域がviaをインダクタンスとみなすことのできる領域です.
高い周波数ではグラフは下に凸になるかもしれません.この領域ではviaは並列共振回路と考えなければなりません.おそらくこの領域ではもはやviaを導通するviaとしてつかことはできないでしょう.
等価インダクタンスはグラフが直線の領域で読み取りましょう.例えば マーカーを0.159GHzでのIm(Z11)を読み取って j0.63Ωだったとすると L=Im(Z11)/2/π/f = 0.63/2/3.14/0.159/10^9=0.63nHです.このように周波数を0.159=1/2/πに選んでおくとIm(Z11)とインダクタンスの数値が一致するので便利です.
グラフの[HELP]ボタンでオンラインヘルプを開き”Inductance”で検索して”Basic R,L,C Values”の項を開くと等価インダクタンスや等価キャパシタンスを直接グラフの縦軸に設定する説明があります.等価インダクタンスやキャパシタンスの抽出にはそれぞれの前提条件を理解しておかないと重大な誤りを犯します.
波長に対して無視できない長さのViaは扱うことができない
波長に対して無視できない長さのviaはsonnetでは扱うことができません.解析結果には大きな誤差を生じる可能性があります.
その1 : Viaの長さが1/4波長に近づくに連れ誤差が大きくなる
上述のように周波数に対してIm(Z11)が直線的に変化している領域では正しいです.グラフが下に凸になって直線からずれてきても,たぶん大丈夫です.しかしviaの長さが1/4波長になると起こるはずの並列共振はsonnetでは起こりません.その領域では非常に大きな誤差が生じます.
長いviaを複数層に分割することでこの欠点を多少補うことができますが,その場合解析時間が大幅に伸びます.viaそのものが共振する周波数領域ではsonnetでなくfull3Dのシミュレータの方が早く精度が高くなります.
その2 : Viaからの放射は無視される
波長に対して無視できない長さのviaに流れる電流からは放射が起こります.特にviaの長さが1/4波長になると大きな放射がおこるはずですが,sonnetのアンテナ解析オプションではこの放射を無視します.
これはあくまで遠方への放射が無視されるということです.via同士あるいはviaと近傍の金属との結合や影響は正しく解析されます.