sonnetで使用できるportの種類と特徴,極性や内部インピーダンス,De-Embeddingの概念.そして高精度だが理解の難しいco-calibrated portについて解説します.
- portの種類と特徴
- De-Embeddingとはなにか?
- co-calibrated internal port
- co-calibrated portの概要
- co-calibrated portを配置するルール
- co-calibrated port groupの内側の制限領域に何も置いてはいけない.
- 他の何かとco-calibrated portとの不要結合が起こらないように配置すること
- box coverを基準電位に指定したco-calibrated portでは,基準となる低損失なbox coverを直接見える配置でなければならない
- 多角形を基準電位に指定したco-calibrated portでは,基準となる多角形導体を直接見える配置でなければならない.
- co-calibrated port groupの一辺に配置されるportは一直線にならべなければならない
- co-calibrated port group の各辺のreference planeは共通でなければならない.
- 基準電位をfloatingに指定した場合は reference planeを設定できない
portの種類と特徴
portの種類→ | box-wall port | co-calibrated internal port | delta gap port | via port |
---|---|---|---|---|
位置 | box-wallとそれに接触した導体の間に置かれる | 回路の内部の対向した導体片と局所的な基準電位の間に置かれる | 回路の内部で接触した導体片の間に置かれる | 回路の内部でviaの途中に置かれる |
de-embedding | できる | する | できない | できない |
基準面の指定 | できる | できる | できない | できない |
コメント | 最も一般的おすすめ | 制限が多い Liteでは使えない | グランド板の無いアンテナ | グランド板のあるアンテナ |
シンボルと極性
portはterminal(端子)でなくterminal pair(端子対)です.一つのportは+と−の端子が非常に接近して配置されています.デフォルトの極性は下記の通りですが,co-calibrated portについては後述します.
box-wall port
delta gap port
via port
autogrounded portは?
古いバージョンのautogrounded port
は,simplified co-calibration port
に置き換えられました. simplified co-calibration port
はco-calibrated port
でreferenceがbottom box cover
に設定した場合の呼び名で,autogranoded port互換です. Liteでは使えません.
ポートの内部インピーダンス
portには図のような内部インピーダンスを持った信号源が接続されます.デフォルトでは R=50, X=0, L=0, C=0 です. この値は電磁界解析には影響を与えません.解析後にSパラメータを表示する場合に使用されるだけです.解析モデルの[port][properties]で変更することもできますし,グラフを表示するときの[graph][options]で解析後に変更することもできます.
信号源の等価回路.デフォルトでは50Ω.
portを右クリックして[port Properties…]で指定することもできる.
[Graph]-[Graph options…]の[Terminations]で指定することもできる.
De-Embeddingとはなにか?
De-Embeddingとはマイクロ波用ベクトルネットワーク・アナライザの校正に相当するSonnetの特徴的な工程の一つです.”Sonnet User's Guide release 18
“-“De-embedding
“では一章すべてDe-embeddingについて説明してあります.
校正とDe-Embedding | 測定器 | sonnet |
---|---|---|
呼び名 | 校正 | de-embedding |
影響 | 非常に大きい | 小さい,無視できる場合も多い |
時間と手間 | 本来の測定の数倍 | 本来の解析に対して無視できる場合もあるし,数倍の時間がかかる場合もある. |
標準器 | 既知の標準器 | 自動生成した解析モデル |
ポート | 50Ω同軸,稀に50Ωストリップ | 非常に多岐にわたる様々な形状のストリップ線路 |
低い周波数の限界 | dcまで | boxの大きさに依存する boxの大きさが波長に対して小さくなりすぎると限界 |
高い周波数の限界 | port形状がTEM線路とみなせる範囲 | boxの大きさに依存する 非TEM伝搬が起こると限界 |
De-Embeddingの長所
sonnetでは原則De-Embeddingを行いますが,理論解析や電磁界シミュレーションでは無視されることも多いです.De-Embeddingをすることで次の利点が得られます.
- ポートの不連続に起因する寄生素子を取り除き,精度の向上,他のシミュレータとの統合時の厳密さが得られる
- 基準面の移動ができる.外部ライブラリや他のシミュレータとのインターフェースの厳密さが偉える.
- ポートに使われる線路の特性インピーダンスと実効誘電率を算出できる.
De-Embeddingの短所,しないことも選択肢の一つ
De-Embeddngしないのも選択肢の一つです.[circuit][settings]で[circuit settings]ダイアログを開き[EM options]ページの[Advanced options]で[De-embed]のチェックを外せば de-embeddingされなくなります.
“de-embeddingを制御して解析効率を高める”記事も参照してください.
De-Embeddingに長い時間がかかる場合があります.
- co-calibrated portを多く含んだモデル.
portの数だけDe-Embedding用のモデルを自動生成し電磁界解析を行うため,portが多い場合は非常に長い時間がかかる場合があります.
- portに非常に太い導体が接続されたモデル.
下の図は典型的なグランド付きコプレナ線路のportの例です. ユーザが入力した左のモデルから,sonnetがDe-Embeddingのために生成したモデルの一つが右の図です.(Ee-Embeddingのため同様の構造で長さが違うモデルも生成します).右のモデルでは線路よりいわゆるグランド導体の面積が非常に広いです.グランド導体といえども電位は不安定なので厳密に電磁界解析しなければなりません.面積の多い導体は解析時間が長くかかります.
De-embeddingに失敗する場合
- 非常に波長の長い(低い周波数)
sonnetがDe-Embeddingに使用する標準器は,複数の異なる電気長さの線路です.非常に波長が長い場合,box内に配置できる線路では電気長さの差が小さすぎてEe-Embeddingに失敗します. 幸いそのような低い周波数ではDe-Embeddingによる結果への影響も非常に小さいので気にする必要はないです.
- portの基準電位が確定できない場合
ダイポールアンテナや逆Fアンテナのポートのようにポートのどちらの端子もsonnetのbox壁に接触しておらず基準電位が確定できない場合,De-Embeddingの結果が誤りを含む場合が多いです.アンテナの解析ではDe-Embeddingをしないほうが良いでしょう.
- 非常に高い周波数
モデルを入力し解析周波数を指定したら[circuit]-[estimate box resonances…]を選んでみてください.そこで現れる最も低い周波数より高い周波数では,非TEM伝搬が起こり,TEM伝搬についての伝送線路理論自体が破綻するので,それに基づくDe-Embeddingも失敗する可能性が高いです.
co-calibrated internal port
co-calibrated portの概要
co-calibrated internal port
はミリ波回路など微小な寄生素子が重大な影響を及ぼす分野で sonnetの電磁界解析モデルと,多ピンの半導体チップや部品を回路シミュレータで組み合わせる場合に良い精度が得られます. その反面,組み合わせる部品にもそれに見合った厳しい測定条件の制御が必要ですし, co-calibrated internal port
の配置について多くの制限があり, それらを理解せず安易に使うことはできません.
長所
- 2本以上の端子のある半導体など外部部品を接続する場合の端子付近に存在する寄生素子の非常に厳密な制御とそれによる高い精度
短所
- 部品ライブラリやその測定条件の元で端子付近に存在する寄生素子をどの様に扱っているか理解が必要.
- 公開されている多くの部品ライブラリが測定時に端子付近に存在する寄生素子を必ずしも厳密に扱っていない.
- de-embeddingを実行するための厳密な条件を満たさなければならない.
- 部品の数だけde-embeddingを実行しなければならず,de-embeddingの解析負荷が大きくなる.
- Liteでは使用できない,
co-calibrated portを配置するルール
co-calibrated portの使用には様々な制限があり,それを理解していないと次々に現れる警告やエラーに悩まされます.以下は”Sonnet User's Guide release 18
“-“Ports
–Co-calibrated Internal Ports
“-“Rules for Co-calibrated Ports
“の要約です.
co-calibrated port groupの内側の制限領域に何も置いてはいけない.
望ましい精度を実現するためにはこの領域の上下の層にも何も置くべきではない
他の何かとco-calibrated portとの不要結合が起こらないように配置すること
feed lineを追加して,reference planeを移動することでportの位置を他のなにかから遠ざけることができます. ↓の例では左のパッドに設けられたviaからポート[1]を遠ざけるためにこの方法を使っています.
box coverを基準電位に指定したco-calibrated portでは,基準となる低損失なbox coverを直接見える配置でなければならない
基準となるbox coverはtopでもbottomでの指定できますが,概ね50Ω/sq以下の低損失な材料でなければなりません. また,co-calibrate portから,その低損失なbox coverまでまっすぐ垂直に降ろした線に他の導体があってはいけません.
多角形を基準電位に指定したco-calibrated portでは,基準となる多角形導体を直接見える配置でなければならない.
基準となる多角形導体は概ね50Ω/sq以下の低損失な材料でなければなりません. また,co-calibrate portから,その低損失な多角形導体までの間に他の導体があってはいけません.
co-calibrated port groupの一辺に配置されるportは一直線にならべなければならない
左の port1は悪い例
portを多層に配置する場合は,他の層のportも一直線に配置しなければなりません.
co-calibrated port group の各辺のreference planeは共通でなければならない.
図の例では
- 同じ辺にある直交ポート3,4のreference planeは共通でなければなりません.
- 斜めのポート2と7は独立したreference planeを指定できます.
- 直交ポート1,5,6はそれぞれ独立したreference planeを指定できます.