De-Embeddingに本来のシミュレーションより長い時間がかかる場合があります.またDe-Embeddingによって結果が間違ってしまう可能性もあります.De-Embeddingに使う標準器を積極的に制御してDe-Embeddingの時間を早める方法と、 De-Embeddingの限界を説明します.
De-Embeddingとは?
この文書とは別に,”De-Embeddingとはなにか?“に説明してあります.
De-embeddingとは解析モデルのポート付近の寄生素子を取り除くことです.これは測定器の校正とよく似た方法です. 測定器の校正では、Open Short Loadの三つの標準器を測定してコネクタの不整合を取り除きますが、 Sonnetの校正(以下De-Embeddingと呼びます. )では、Sonnetが自分自身で標準器のモデルを作り出し、それを解析してポートの不連続を取り除きます. 測定器の校正と同じくDe-Embeddingは本来のシミュレーションより時間がかかることがあります.
De-Embeddingが使うCal standard
SonnetではEe-Embeddingのために使う標準器をCalibration standardと呼びます. 測定器のCalibration standardは、Open Short Loadの三つの既知のデバイスですが、 SonnetのCalibration standardはSonnet自身がその都度作り出します. 例えば、 右図の問題を解析するとき、Sonnetは次の二つのモデルをCalibration standardとして作り出し、そしてそれぞれを解析します.
つまり、Sonnetは実際には、ユーザーが与えたモデル以外に、自分自身が作り出したCalibration Standardも解析しているのです.
以上の説明は、Ee-Embeddingの仕組みを理解していただくための概要です.現実のSonnetは、もっと複雑な多くの条件に基づいてcalibration standardを生成します.
De-Embeddingの問題点
時間がかかる場合
Sonnetが解析するCalibration Standardの数は、ポートの数が多い場合には 非常に多くなります.特にComponentをたくさん使っているときにSonnetはcomponentの端子一つ一つについてDe-Embeddingを実行します. 解析時間の殆どがCalibration Standardの解析に費やされることすらあります.この場合は、Calibration Standardの生成をSonnetに任せず、明示指定することで全体の解析時間を大幅に早めることができます.
誤った結果を出してしまう場合
De-Embeddingをすることで最終的な結果が”信頼できない”ものになってしまう場合もあります.BOX共振が起こっているとか、基板の厚さが1/4波長を越えているとか、Calibration StandardがTEM線路でなくなってしまうような状況下では De-embeddingは ”誤った結果”を出してしまいます.この場合”De-embeddingをしない”ようにオプション指定することができます.
De-Embeddingが解析効率を損なっている例
コプレーナ線路
コプレーナ線路は、その広いグランド導体が解析効率を損ねる場合が多い典型的な問題です.解析ログを見ると詳細な状況がわかります.
De-embed left box wall: First de-embedding standard, left box wall: 6.6 mm length, 251 subsections, about 2 MB.Time: 0.296 seconds. Second de-embedding standard, left box wall: 13.2 mm length, 482 subsections, about 5 MB.Time: 0.844 seconds. De-embed right box wall: First de-embedding standard, right box wall: 6.6 mm length, 251 subsections, about 2 MB.Time: 0.297 seconds. Second de-embedding standard, right box wall: 13.2 mm length, 482 subsections, about 5 MB.Time: 0.828 seconds.
ログには左と右の壁に配置されたポートをde-embeddingするために4つのCalibration standardを解析したことが記録されています. この場合の4つのcalibration standardは下図の4つです. 全体の解析時間は2分9秒のうち、 これらの解析に無視できない時間がかかっていると思われます.
次の変更で解析時間は約半分になりました.
- [Circuit]-[Ref Planes/Cal Length]で、左右の壁にあるポートについて Use fiexed cal.lenth を3.2mmに指定しました.これは基板厚さの2倍です. これによってより短いcalibration standardが生成されるようになります.standardを電磁界解析するときの未知数が半分になれば,その解析時間は1/8になります.
- port1とport2の寸法を統一しました.実は以前のモデルではport1とport2の寸法がほんの少し(見た目ではわからない程度) 違っていました.Sonnetはその違いに気づいて、それぞれのportのためのcalibration standardを別々に作っていました. 完全に同一の寸法ならcalibration standardは次の2つで十分です.
コプレーナ線路ではポート面に接した広いグランド電極が、calibration standardにも再現されるので、 De-Embeddingに時間がかかる傾向があります.この例のように少しの工夫で解析時間を短縮できる可能性があります.
非常に多くのComponentsとco-calibrated port
このモデルは、三つのcomponentを含んでいます.解析ログを見ると例えば
De-embed Component C1: Component C1 Main Std: 130 subsections, about 4 MB. Time: 0.203 seconds. Component C1 Left Std 1: 3.5 mm length, 51 subsections, 3 MB. Time: 0.063 seconds. Component C1 Left Std 2: 7 mm length, 97 subsections, 4 MB. Time: 0.078 seconds. Component C1 Right Std 1: 4.7 mm length, 61 subsections, 3 MB. Time: 0.062 seconds. Component C1 Right Std 2: 9.4 mm length, 117 subsections, 4 MB. Time: 0.109 seconds.
c1に関して5つのcalibration standardを解析しています.3つのcomponentがあれば全部で15個のcalibration standardを生成し、解析しなければなりません.componentの数が増えると、De-Embeddingに必要な時間はどんどん増えていきます.
De-Embeddingが誤った結果を出す例
De-Embeddingが誤った結果を出す場合、De-Embeddingをoffにできます.
真のグランドが存在しないアンテナ(ダイポールアンテナ,逆Fアンテナなど)
ダイポールアンテナは、De-Embeddingをするべきでない典型的な問題です.
グラフはDe-Embeddingした場合としない場合の結果です.一致しているように見えますが、1〜1.5GHz付近を拡大するとS11は明らかに正になっていて、 何かの間違いが起こっていることがわかります.
この原因は、Bottomがポートから1/4波長より離れたところにあるため、calibration standardに使われる線路がTEM線路とみなせないことです. アンテナのモデルではポートからBoxのBottomまでの距離は1/4波長に設定してあります. これはcalibration standardがTEM線路と みなせるかどうかのぎりぎりのところなので、S11は0を少し超えただけでした. しかし、基板の誘電率が高かったり、BoxのBottomまでの距離を大きく設定したときは、 より大きな誤差を生じることがあります. これは測定器の校正でも起こります.同軸やマイクロストリップの校正キットの設計周波数を超えて校正すると, それらの線路がTEM線路とみなせなくなり、致命的な誤差を生じるのです.