過去に”結果がおかしい”, “他社の??と結果が違う” などのご指摘の多かった事例を紹介します.特性インピーダンスが微妙に違う,差動線路の特性インピーダンスがぜんぜん違う.他社製品や実験では現れない共振,変なアンテナ放射パターンなど.
ストリップ線路の特性インピーダンスが??と合わない
特性インピーダンスの少々の違いを気にしないことをお薦めします.気にするからには ソネット入門の”2.4パラメータスイープと特性インピーダンス”,特にそれに対応する動画,波長による高周波の分類とそれぞれの性質 を理解した上でその違いを考えてください.多くのシミュレータや理論解析はそれぞれ違うものを扱っているので厳密には一致しないのです.下記はよく用いられる解析や測定法の特徴です.
解析法 | 側壁 | 天井の高さ | 導体厚さ | 周波数依存性 | 非常に低い周波数領域 | 高次モード 非常に高い周波数領域 |
---|---|---|---|---|---|---|
sonnet | 3次元電磁界解析する | 電磁界解析する | デフォルトでは無視 Thickmetalモデルか二層導体モデルで再現できる | 電磁界解析する | 低周波側の限界がある | 独自の現実的な定義に従う, 実験との整合性が良い |
一部の電磁界シミュレータ | 無限遠 | 電磁界解析する | デフォルトでは無視か近似式 厚さを含むモデルも使える | 電磁界解析する | 低周波側の限界がある | 無視 |
wheelerの方法 回路シミュレータや一部の電磁界シミュレータ,オンラインの計算サイトや簡易ツールのすべて | 無限遠,または近似式 | 無限遠,または近似式 | 線路幅をちょっと広げて近似する | 近似式 | できる | 無視 |
2D FEM法 一部の電磁界シミュレータ | 2次元電磁界解析する | 電磁界解析する | 無視もできるし,精密に電磁界解析もできる | 電磁界解析する | できる | モード毎にZvi,Zpv,Zpi,を出力する. 理論との整合性が良い |
オープンショート法による測定 低い周波数で便利で現実的な方法 | 含まれる | 含まれる | 含まれる | 無視 | できる | 無視 |
TDR法による測定 | 含まれる | 含まれる | 含まれる | 周波数領域に変換して評価する | 可能 | 含まれるが,(同軸以外は) 再現性の良い測定は至難の業.ほぼ無理 |
差動インピーダンスが全く間違ってる
”全く間違ってるなら”そもそもモデルが間違ってるか,”差動インピーダンス”と思っているそれは別のなにかでしょう.ポートの配置や極性,間違った対称線を使っているなどがありがちな間違いです.差動線路の特性インピーダンスを求めるならポートは次のように配置してください.
左側の[1]と[-1]を組み合わせたポートは差動モードのポートになります.

右側のふたつの[2]を組み合わせたポートはコモンモードのポートになります.
どちらの場合も線路そのものの長さは特性インピーダンスの計算に全く関係ないので非常に短くて構いません.(どうせsonnet自身がDe-embeddingの過程で適した長さの線路を自動的に生成します)
グラフを表示するときに,特性インピーダンスは”line Z0″を選びます.インピーダンスという言葉だけで ”Z-parameters”や ”Input Impedance”を 選んでませんか?それは 特性インピーダンスではありません.

二倍くらいになるとか半分くらいになるとかなら,evenモード,oddモードの考え方とコモンモード,差動モードの考え方を混同しているのでしょう.実際evenモードはコモンモードと,oddモードは差動モードと電磁界分布は全く同じですから混同しやすいです.しかしそれらの特性インピーダンスとは次の関係にあります.
\(Z_{diff} = 2 \cdot Z_{odd}\)
\(Z_{comm} = \frac{Z_{even}}{2}\)
あるいは特性インピーダンスが定義できない周波数領域にうっかり踏み込んでしまっているかもしれません.解析周波数を一桁とか二桁下げてみてはどうですか? 少しの差なら上の”ストリップ線路“と同じ現象かもしれません.
対称線を使うと結果が無茶苦茶だ
結果に納得できないなら対称線は使わないほうが良いです.sonnetの対称線は機械的な対称性でなく,電磁気学の分野で磁気壁(電界が垂直に交わる壁)の意味です.計算機が遅い時代には対称性を利用して解析時間を短縮するのは重要な手法でしたが,21世紀には知らなくても良いと思います.
変な共振が現れる
解析時のboxと同じ寸法のシールドケースに入れて実験すれば同じように共振が出るはずです.この現象はプローバーやバラックの試作実験では発生しません.シールドケースに入れて製品化したときに発生します. sonnetはシールドケースに入れる必要がある高パフォーマンスの製品の設計に合わせた計算法を採用しています.下表にそれらの違いをまとめてあります.
この現象が起こる周波数領域まで解析しているなら解析時間が遅すぎて悩んでいるかもしれません.”Adaptive Sweepは高い周波数の限界がある“も参照してください.
シミュレーションまたは測定環境 | box共振 | ダイナミックレンジ | 放射損失による回路パフォーマンスの低下 |
---|---|---|---|
sonnet ケースに入れた製品 | ある | 80dBとか100dB 周辺環境の影響を受けない | 無い |
開放境界のシミュレータ プローバーによる測定 蓋を開けた状態の測定 | 無い | 30dBとか50dB 周辺環境の影響を受ける | ある |
sonnetで[top metal]を[free space]に指定 ケースに入れた製品でケース内に電波吸収体をたくさん入れる | 弱い | 80dBとか100dB 周辺環境の影響を受けない | ある |
実験では現れる共振がsonnetでは再現しない
“Adaptive Sweepは高い周波数の限界がある“も参照してください.メニューで[Circuit]-[Estimate Box Resonances]を選んだときに表示されるたくさんの共振モードとその周波数に”対称性により現れない”というコメントがついているかもしれません.
それは完全な対称構造では存在できない共振モードです.sonnet(に限らずシミュレータ)では対称な構造は完全に対称ですが,実験では完全な対称構造はつくれないので,この種の共振が観測される可能性があります.
実験となんか(あるいは全然)違う
違うものを測ってることに気づいてないかも.実験では特にグランドはグランドとは限りません.”グランド電位の不安定性の一例“も参照してください.
放射パターンがへんてこ1
アンテナ解析のガイドラインの”2.5 結果の表示:patvu”を読んでください.sonnetの放射パターンの計算では,水平方向の放射は大きな誤差を含みます.仕様です.
放射パターンがへんてこ2
sonnetの放射パターンの計算ではvia(垂直な導体)からの放射は無視されます.仕様です.