アンテナ解析モデルを作る場合はこの文書を良く読んでそのガイドラインに従ってください. |
設計パラメータの概要
主な設計パラメータは次のようなものがあります.- 基板厚さ、材料
- アンテナのパフォーマンスを最適にするには、誘電率が低い基板(例えば空気)で厚さは1/16~1/64波長に選んでください. 波長に対して薄すぎる基板, 誘電率の高い基板材料はアンテナの効率を下させます. 例えばUHFで1.6t基板を使ってはいけません. 一方,波長に対して厚すぎる基板は,パッチアンテナではなく別のアンテナとして動作し, パッチアンテナの設計理論が使えません.
- 接地板の大きさ
- パッチの周囲に少なくとも1/4波長の余裕のある接地板を確保すべきです.
- パッチの形
- 円と方形が一般的ですが、多角形や楕円もあります.アンテナのパフォーマンスは殆どかわりません.
- パッチの大きさ
- 1/2波長です.
- 給電位置、給電方法
- 給電位置と給電方法を工夫して整合を実現してください.集中定数素子で整合回路を作ると多くの場合、集中定数素子の損失が、整合したことによる利得を相殺してしまいます. ケーブルを引き回すのでなければ50Ωにこだわるべきではありません.半導体の多くの内部回路は50Ωとはかけ離れています.リファレンスデザインでは測定の都合で50Ωで評価しているだけであって、50Ωが最適なわけではないのです.
- ↑上述のパラメータはすべてアンテナに一般的なパラメータです.一点給電円偏波パッチ固有のパラメータは↓だけです.
- 縮退分離素子の形状と大きさ
- 角を切り欠いたり、中央に配置した斜めのスリットを縮退分離素子として使う方法が良く知られていますが、対称性を崩しさせすればどんな形であろうとかまわないし、アンテナのパフォーマンスも殆ど変わりません.
例題モデル
右の図に示す一点給電パッチアンテナを例にパラメータの決め方を説明します.このアンテナの主なパラメータは- 基板は空気で厚さ10mm、約1/30波長
- 接地板は解析時は周囲に1波長、試作は周囲に1/4波長
- パッチの形は正方形
- 大きさは約1/2波長、厳密にはシミュレータで最適化する
- 給電位置はパッチの中心(ゼロ電位点)から約1/12波長程度の位置、厳密にはシミュレータで最適化する
- 縮退分離素子は対角線上に配置した方形穴.穴の大きさはシミュレータで最適化する.
モデルでは
- 大きさ l
- 給電位置はパッチの中心(ゼロ電位点)から給電位置までの距離 fp
- 縮退分離素子の大きさ s
給電位置 fp
パッチアンテナのインピーダンスは、パッチの端部で通常100-300Ω程度、パッチの中心では0Ωです.従って給電位置をパッチの中心から端部に移動してゆくと、必ずどこかに適切な給電位置があるはずです.- 給電点が中心に近すぎる
- 疎結合です.スミスチャート上でインピーダンス軌跡が小さくスミスチャートの中心に届いていません.
- 給電点が端部に近すぎる
- 密結合です.スミスチャート上でインピーダンス軌跡が大きくスミスチャートの中心を取り囲んでいます.
給電位置fpを加減して、インピーダンス軌跡がスミスチャートの中心を通過するように設定してください.
ちなみにこのモデルではパッチ中心のゼロ電位点にviaを配置しています.このviaはあっても無くても、動作には何の影響をないのでパッチエレメントを支える金属スペーサやビスに使うことができます.
縮退分離素子の大きさ s
縮退分離素子を徐々に大きくしてゆくと、滑らかな円形のスミスチャートの軌跡に、くぼみが現れ、さらにねじれてゆきます. このねじれる寸前のくぼみがとがった点で最適な円偏波が発生します. この最適点を、通常の直交座標のグラフで判断することは殆ど不可能です.縮退分離素子の大きさsを加減して、インピーダンス軌跡がねじれる直前のハート型になるように設定してください.
さて円偏波アンテナでは
- 整合が最適な周波数
- 最適な円偏波が発生する周波数
patvu 遠方界の評価
製品版にpatvuオプションをつけると、このアンテナから放射する電波の- 放射方向 : どちらの方向に強く放射されるか?あらぬ方向に強い部分がないか?
- 放射成分 : 左右の円偏波成分や水平垂直の成分を分離してそれぞれの比率を知る.
- 放射の強さ : 本当に空気中に放射されているか?アンテナの損失で熱になっていないか?
実験
実際に試作して測定してみました.パッチは0.1mm厚の銅板を使ったので、銅板がゆがんでいて、接地板からの距離が部分的に変化しています. インピーダンス軌跡が鋭いハート型になっていないのはそのためらしく、少し銅板を傾けたり歪めると鋭いハート型やねじれたインピーダンス軌跡が見えました.整合位置はほぼ設計通りですが、コネクタの中心導体が細すぎて直列インダクタンスを持っているためにインピーダンス軌跡がゆがんでいます.課題
一点給電円偏波パッチアンテナでは、完全な円偏波が得られるのは正面方向、中心周波数のみで、そこからはずれると急激に円偏波の品質が劣化することが知られています.この問題を解決するため、複数の一点給電円偏波パッチアンテナをシーケンシャルに接続する方法が一般的です.シーケンシャル接続されたパッチアンテナの設計にはSonnet Level2 Silver(Patvu opt.付き)以上をご利用ください.アンテナ解析モデルを作る場合はこの文書を良く読んでそのガイドラインに従ってください. |