2007/4/14
2009/10/5修正
2013/5/17修正
石飛
キャパシタの3つのモデル
最初にキャパシタの高周波での振る舞いを説明する3つの回路モデルを紹介します. ほとんどの回路で二番目のモデルまで必要になるでしょう.3番目のモデルが必要かどうかは実装状態に依存します.
非常に低い周波数領域:理想モデル
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キャパシタの理想的なモデルです.インピーダンスは周波数とともに単調に減少します. 設計の初期段階ではこのモデルが使われます.
直列共振周波数付近まで:直列共振モデル

現実のキャパシタでは、直列共振周波数を境にインピーダンスは上昇します. ほとんどの場合設計者はキャパシタの この直列共振周波数を把握しておく必要があります.
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この周波数領域の振る舞いは右図のような単純な直列共振回路で再現することができます.
キャパシタのインピーダンス Z=ESR+ j(ω Ls-1/(ω C)) 直列共振角周波数 ωs^2=1/(Ls C)
Cとωsはキャパシタのデータシートに記載されています. Lsはほぼキャパシタの形状寸法で決まり,同じシリーズのキャパシタならほぼ同じ値になります.実装時に キャパシタの形状寸法より細長い導体パターンやViaを,キャパシタと直列に接続すれば,上記のLsが増大し,直列共振周波数が下がります.
薄い基板あるいはさらに高い周波数領域まで:並列共振モデル

さらに高い周波数領域では、キャパシタのインピーダンスは並列共振周波数に向かって急激に上昇します.並列共振周波数はキャパシタ単体だけでなく 実装構造に大きく依存します.
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右図は並列共振の振る舞いを再現する回路モデルです. この回路で 並列共振周波数は概ね ωp = 1/(Ls*( Cp + Cf/2 )) です. Cpはキャパシタの電極間をキャパシタの外側を通じて接続する浮遊容量で, キャパシタ単体では非常に小さな値です. 一方Cfはパッド電極から、それに対向するグランドパターンへのキャパシタで、基板の厚さや材料で大きく変化します.
解析の方法
上記のモデルをシミュレータ上で実現する概要を紹介します. 直列共振モデルの再現が必要な場合は電磁界シミュレータより回路シミュレータが適しています. Sパラメータファイルには並列共振現象も含まれますが,実装状態への依存性を再現できません. 並列共振モデルを再現するには電磁界シミュレータが適しています.
理想モデルと直列共振モデル
このモデルの振る舞いを再現するには SPICE等の一般的な回路シミュレータが適しています. 理想モデルはもちろん,直列共振モデルに必要なESR,Lsの値も容易に入手できますし, モデルライブラリの入手も容易でしょう.
必要なら,実装上の導体パターンやViaだけを電磁界解析して,そのインダクタンスを回路シミュレータに与えれば,実装上の直列共振周波数の低下も再現できます.
並列共振モデル
並列共振モデルの振る舞いを再現するには 電磁界シミュレータが適しています.
Sパラメータファイルを使う方法
Sパラメータファイルはほとんどの高周波用シミュレータで使用できます.
Sonnetの場合は二つの方法があります.
- [tool]-[add component]-[datafile]を選んでキャパシタのSパラメータファイルをSonetのモデルに追加する.
- [tool]-[add component]-[Portonly]を選んでSonnetの解析結果たるSパラメータファイルと キャパシタSパラメータファイルとを他の回路シミュレータで合成する
キャパシタのSパラメータファイルには,ある特定の実装状態での並列共振周波数の影響がきちんと含まれています. いかなるシミュレータにSパラメータファイルを組み合わせようとも, 実装状態への依存性を再現することはできません.
Sonnetのideal componentモデル
実装状態に依存する直列共振,並列共振はもちろん 部品同士の不要結合やその他 マクスウェルの電磁界方程式に従う全ての電磁気的現象を再現します.
形状寸法や材料に関する設定項目が多く, パッドと部品の境界を厳密にde-embeddingするために, 部品の配置に制限がありますし,解析負荷も重いです. Sonnetのグレードによっては使用できる数にも制限があります.
広帯域なシートリアクタンスを使うモデル
実装状態に依存する直列共振,並列共振はもちろん 部品同士の不要結合やその他 マクスウェルの電磁界方程式に従う全ての電磁気的現象を再現します.
形状寸法や材料に関する設定項目が多く,それらを引数とした使う関数を定義しなければなりません. シートリアクタンスはSonnetの一般の導体図形と同等に扱われ, 解析負荷は軽く,配置の自由度も大きいです.
並列共振モデルを再現する三つの方法の特徴
ideal componentを使うモデル | Sパラメータファイルを使う方法 | 広帯域なシートリアクタンスを使うモデル | |
---|---|---|---|
直列共振周波数と直列共振周波数が再現できる. | ○ | ○ | ○ |
ωpの実装構造への依存性も再現できる. | ○ | × | ○ |
適用できる周波数範囲 | ○ | × データのある範囲 | ○ |
必要なパラメータ | Cの値,材料や,形状寸法 | Sパラメータ | Cの値,材料や,形状寸法,関数定義 |
一般性 | △ Sonnet独自 | △ ほとんどのシミュレータで共通 | × Sonnet独自,ユーザー定義関数も必要 |
解析負荷 | × | △ | ○ |
配置の自由度 | △ | △ | ○ |
実験による広帯域シートリアクタンスモデルの検証
手元にあった2.0x1.25のチップキャパシタ(10pFと100pF)を実際に測定し、ソネットのモデルと比べて見ました.
直列接続 | 並列接続 | |
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実験の様子 |
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100pF測定値 |
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10pF測定値 |
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sonnet解析結果 |
![]() ここをクリックするとモデルをダウンロードできます. |
![]() ここをクリックするとモデルをダウンロードできます. |
校正はresponse校正なので測定値にリップルが見えます.またこの測定系では-30dB以下の測定値はあまり信用できません.評価基板は2-3GHzの間で共振点を持ち、その影響が特に直列接続の測定値に現れています.
Sonnetでのモデルの入力方法
Sonnetでモデルを入力する具体的な操作を紹介します.
広帯域なシートリアクタンスを使うモデルの作り方
-
キャパシタのパッドの導体パターンを描きます. パッド間のキャパシタも長方形の導体として描きます. このパッドを除いたキャパシタの幅Wと長さLはあとで必要になります. (この例では W=1.0, L=1.2としましたが, Wを実際のチップ部品の幅の半分程度にするとよい結果が得られるようです.)
- [Circuit]-[Valiable List...]でVariable Listを開きます.
- [New...]ボタンで,変数 C を定義してください. 値としてキャパシタンスの値を設定してください. (単位は[Circuit]-[Units...]で設定した単位です.たぶんpFでしょう)
- [New...]ボタンで,変数 W を定義してください. 値として右図の幅Wの値を設定してください. (単位は重要ではありませんが,下のLと同じ単位をつかってください)
- [New...]ボタンで,変数 L を定義してください.
値として右図の幅Lの値を設定してください.
(単位は重要ではありませんが,上のWと同じ単位をつかってください)
- [New...]ボタンで,変数 Xs を定義してください.
Xsは単位面積辺りのシートリアクタンスです.
次の数式をXsに定義してください.
-1/(2*pi*freq*C*1e-12)*W/L
Sonnetはこの数式を逐次計算しながら解析を進めます. (数式の単位はSI単位系です.1e-12 はキャパシタの単位に合わせてなおしてください.WとLについては比だけが使われるので単位は重要ではありません) - [OK]でVariable Listを閉じます.
- [Circuit]-[Metal Types...]で導体のリストを開きます.
- [Add Planer...]ボタンで新しい導体を定義します.
- Nameを例えばXcとでもしましょう.
- Modelは[General]を選んでください.
- Xdcの欄の右端の▽をクリックして,上で定義した変数Xsを選んでください.
- [OK]で閉じます.
- パッド間のキャパシタを意味する長方形の導体を右クリックし, メニューから[Metal Properties..]を選びます.
- Metal欄の右端の▽をクリックして,上で定義した導体Xcを選んでください.
- [OK]で閉じます.
これで パッド間の長方形の導体は,キャパシタとして振舞います
バイアス線路のデカップリング回路の一例
直列共振周波数を越えてキャパシタが働く回路の一例としてバイアスデカップリング回路の解析例を示します.
バイアス回路が備える条件
バイアスデカップリング回路は単なる電源供給線路として軽視されがちですが、以下の条件を備えているかどうかを把握しておかなければ実装後に再現しない不要放射に悩まされたり、はなはだしくは寄生発振の原因となります.
- 負荷側からデカップリング回路を通して電源側を見たインピーダンスが低いこと
- 直流もしくは低い周波数で電源と負荷の間の伝送損失が少ないこと
- それ以外のあらゆる周波数で電源と負荷の間の伝送損失が大きいこと
条件1を満たすためにパスコンと多くのキャパシタが用いられますが、キャパシタの直列共振周波数を把握しておかないと意図しない結果になります.二番目の条件は小信号回路では重要ではなく、三番目の条件を満たすために直列抵抗を入れることさえあります.条件三が満たされないと、負荷(つまり高周波信号を扱うアクティブ素子のコレクタなりドレインなりの端子)から電源回路に高周波エネルギーが漏れ出し、それはさらに高周波にとってはあまりにも長い長い電源ケーブルを通じて他のシステムや回路に入り込んだり、空中に放射されます.
結果

ここでは2種類のバイアスデカップリング回路を解析してみました.ひとつはキャパシタのみで構成したもの、もうひとつはキャパシタとインダクタを組み合わせたものです. グラフは電源と負荷の間の伝送損失の解析結果です.Sonnetでは1MHzから3GHzという3デカードを超える非常に広帯域な電磁界解析が可能です.
キャパシタのみの回路では10MHzから1GHzの間に、各キャパシタの共振点が次々に現れて、伝送損失は-20dB以下といったところです.ところがインダクタを組み合わせた回路では10MHzから3.6GHzの範囲で伝送損失は-60dBで、歴然たるパフォーマンスの違いがあります. これは上記の条件三にかかわるもので、この二つの回路は、例えば100MHzでの不要放射レベルで40dBの差になります.
下の表はこの二つの回路の解析モデルと各周波数での電流分布を示しています.キャパシタのみの回路では5種類の容量のキャパシタを単に並列に接続しています.一方LCバイアス回路では、同じく5種類のキャパシタだけでなくインダクタを組み合わせて9次のLPFを構成しています.バイアスデカップリング回路をLPFと考えると、この両者の差が理解できます.高周波の不要放射に対してどちらが有効かいうまでもありません.
キャパシタのみのバイアス回路 | LCバイアス回路 | |
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部品の配置 |
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0.001GHz |
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0.01GHz |
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0.1GHz |
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1GHz |
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3.6GHz |
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モデル | bias1.zon | bias2.zon |
設計のポイント
- 広い周波数範囲で動作させるため複数のキャパシタを使う
- 並列共振点を再現できるキャパシタモデルを使う
- キャパシタとキャパシタの間にインダクタを配置してLPFの次数を増やす
- 小さな容量のキャパシタほど負荷に近い位置に配置する.
まとめ
- キャパシタは高い周波数ではキャパシタとして働きません.
- 周波数によって適切な解析モデルを選ばなくてはなりません.
- Sパラメータファイルを使う方法は非常に高い周波数まで有効ですが、実装構造への依存性を再現できません.
- Sonnetのモデルは容易にパラメータを知ることができ、しかも実装構造への依存性を再現できます.
- 新しいモデルを使う例としてバイアスデカップリング回路の解析例と設計のポイントを示しました.