概要
単純なパッチアンテナに関して、接地板の大きさが有限な場合の影響を sonnetを使って解析した. まず、大きな接地板の場合にパッチ電極の寸法を最適化し、 その放射パターンと電流分布を求めた. つぎに、そのパッチ電極を一辺一波長の有限接地板上に配置した場合に 同様に放射パターンと電流分布を解析し、その変化を示した.
無限地板上のパッチアンテナ
パッチ寸法の概算
方形パッチアンテナの寸法は、概ね1辺が半波長になる. 例えば 2.45GHzの自由空間波長は
300/2.45/2=61.2(mm)誘電体基板の比誘電率を4.3とすると
61.2/√(4.3)=29.5(mm)程度になる. これは概算であり、正確には、比誘電率や、パッチ端部の影響を考慮した計算が必要になる.1 しかしそのような計算は煩雑なのでsonnetのparameter sweep機能を使うと簡単に正確な値を求めることができる.
sonnetによるパッチ寸法の計算2,3
下のモデルではパッチ辺長に 寸法パラメータlを設定してある. 主な条件は基板厚1.6mm,基板の比誘電率4.3,目標周波数2.45GHz,パッチ電極寸法lは28-32mmまで0.5mm毎に変化させる.
解析結果をポートのアドミタンスの虚数成分Im(Y)で評価すると図のように l=28.5mmでIm(Y)=0となる.すなわちl=28.5mmの時、このパッチアンテナは正しく動作する.
また,その時のインピーダンスは250オーム程度になる.
無限接地板上のパッチアンテナの動作
そこでl=28.5mmとして、 2.45GHzの電流分布と放射特性を解析 してみた.
有限地板上のパッチアンテナ
上記の理想的なパッチアンテナを有限地板上に配置することで どのような変化が起こるだろうか?
無限地板
この原因を端的に知るために電流分布を観測することは意義がある.
"接地板"という語感から往々にして接地導体の電位は0Vと考えられがちだが、 実際にはこのように接地導体にも部分的に強い電流集中が起こる. この状態で接地電極付近は様々な部品や 機構が無造作に配置されると放射条件は様々に変化することは容易に推察される.
むすび
- sonnetのparameter sweepを使うことで古典的なアンテナ設計の理論に基づく 煩雑な計算を短時間で行うことができる.
様々なアンテナに関して長年その設計理論が研究されて来たが、 それらの設計理論を実務の現場でそのままトレースすることは困難である. 電磁界理論に基づく概算とsonnetのparameter sweepの組み合わせは 短時間で厳密な設計を可能にする. - sonnetでは有限接地板の影響を簡単に解析できる.
殆どのアンテナ理論では、”無限遠点”とか”無限導体”を仮定して組み立てられている. アンテナ実装上それらの仮定を実現することは不可能であり、 その影響を考慮しなくてはならない. sonnetのような電磁界解析ツールなしにそれらの影響を見積もることは非常に困難である. - 接地板の電位は0Vではない.
アンテナは決してアンテナ素子だけで動作するわでけはない. 周囲の状況、特に"接地”と呼ばれる導体は決して接地電位では無く、 その大きさ形状取り付け方法など電気的な設計と切り離して行うことはできない.
文献
- 羽石操 他 小形・平面アンテナ" コロナ社 ISBN4—88552—138—6
- Sonnet Software inc. Sonnet User's Manual Volme1
- 小暮裕明 "電磁界シミュレータで学ぶワイアレスの世界" CQ出版社 ISBN4-7898-3355-0