パッチアンテナアレイを解析する場合のメモリ使用量について例をあげて紹介する. そしてアレイアンテナを設計する場合の基本的な性質を単純なモデルで実証する.
アレイのメモリ使用量
円偏波パッチ単体 メモリ使用量11MB このモデルでは、円偏波の品質はとても悪い. (アレイ化の効果を示すため敢えて悪くしてある.) | ||
2x2 円偏波パッチアレイ メモリ使用量98MB 円偏波パッチではアレイの配置と給電位相を適切に設定すると円偏波の 品質を大幅に改善できる. このモデルでは単体パッチを90度ずつ回転させた4つのパッチに90ずつ位相差給電している. | ||
4x4 円偏波パッチアレイ メモリ使用量1532MB 上の4つのパッチ組をさらに4つ配置し並列給電した. この規模のモデルではパラメータを換えて解析を繰り返すのはかなり億劫に感じる. | ||
8x8 直線偏波パッチアレイ メモリ使用量1280MB 直線偏波のパッチを8x8配置し一様位相一様給電したアレイ. 直線偏波では円偏波より大きな規模のアレイを同程度の解析モデルに収めることができる. アンテナをアレイ化した場合の性質は円偏波も直線偏波も同一なので、アレイ化の性質は直線偏波アンテナで行ったほうが能率的である. |
個々のアンテナ素子の配置、数、給電位相と振幅からアンテナアレイ全体の特性を求める計算は 容易で、高速に計算することができる. いわゆる スマートアンテナや フェーズドアレイレーダーではアンテナと一体のシステムがリアルタイムにその計算を行っている.
上のモデルでは同じ計算を電磁界解析で行っている.それは可能ではあるが、アンテナ素子数の増加に伴いメモリ使用量は急激に増加する.
それゆえアレイアンテナの設計においては、個々のアンテナ素子や、分配器、移送器、そしてそれらを接続する給電線路や経路に関しては電磁界解析を使用し アレイ化による効果はアレイアンテナの設計理論に基づいて計算したほうが現実的といえよう.
アレイアンテナ設計の基本
アレイアンテナの設計理論は幸いなことに日本語で書かれたオリジナルな文献が多数入手できる. ここではダイポールアンテナをアレイにしたシンプルなモデルを使ってアレイアンテナの性質をかいつまんで紹介する.
アレイアンテナの大きさによる変化
アンテナ素子を複数個並べてアレイアンテナ全体を大きくしたときの特性の変化を調べる.
アレイの大きさが2倍になるごとに正面方向利得は3dB増加します. 同時に指向性は鋭くなり、主放射方向以外に多数のサイドローブが生じます.
アンテナ素子数による変化
アレイアンテナ全体の大きさを一定にし、そこに含まれるアンテナ素子の数を変化させた.
1/4波長間隔 | ||
1/2波長間隔 | ||
1+1/6波長間隔 |
正面方向からアレイアンテナを見たときアンテナ素子間隔は1/2波長未満にすること. 素子間隔が1/2波長を越えると放射方向が大幅に変化する.
素子間隔が1/2波長未満の範囲では 、素子間隔によらず正面方向利得は変わらない.
給電振幅による変化
アレイアンテナ内の各アンテナ素子を駆動する振幅の分布を照度分布と呼び、
照度分布を適切に設定することでサイドローブレベルを低くすることができる.
ここでの指向性グラフはサイドローブレベルを把握するため、
直交形式で、且つ正面方向放射レベルを基準にした相対レベルでプロットしてある.
モデルのポート番号は中央から外側に向かって対称性を保ちながら番号付けしてある.
そしてモデルを電磁界解析した後で、patvuに様々な駆動条件を設定して放射の変化を調べた.
一様分布 | ||
cos^2振幅分布 |
アンテナ素子間隔、素子数、アレイの大きさなどにかかわらず 一様分布の第一サイドローブレベルは-13dBになる.
一般にアレイアンテナの中央部の振幅を大きく、周辺部を弱くするとサイドローブレベルが下がるが、同時に主放射レベルも低下する.大規模なアレイでは照度分布を厳密に制御してサイドローブレベルの最適化が行われる.
給電位相による変化
アレイアンテナ内の各アンテナ素子を位相差をもって駆動するとアレイアンテナの主放射方向を変化させることができる.
モデルのポート番号は左から右に向かって番号付けしてある.
そしてモデルを電磁界解析した後で、patvuに様々な駆動位相を設定して放射の変化を調べた.
同相給電 放射方向は0度 | ||
隣接素子との位相差30度 放射方向は9.6度 | ||
隣接素子との位相差60度 放射方向は19.5度 | ||
給電位相差φと放射方向θの関係は、 d * cos θ < λ/2 が保たれていれば d * sin θ = λ * φ / 2π になる.